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ニューヨークのグリーンレディ

ニューヨークのグリーンレディ

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「話しかけて、なんでグリーンなのか、彼女に聞いて」と、幼い息子に頼まれた。

NYブルックリンの近所のオーガニック食料品店で買い物中、上から下まで美しいライムグリーン色に包まれた彼女をまた目にしたときだ。通りでたまに見かけるグリーンレディに、息子は前から興味をそそられていた。

テクテクと大きな犬を散歩させる彼女の明るい色彩は、反対側の通りからでも輝いて見えた。グリーンのオーバーオール、二つのお団子ヘアには明るくキラキラのグリーンのヘアダイ、グリーンのバックパックからは薄グリーンのカエルのぬいぐるみが覗いている。

息子は私の背中を後ろからぐいっと押し、買い物中の彼女の目の前につき出した。それで私は挨拶した。グリーンレディの名前は、エリザベス・スイートハート。彼女は顔をくしゃくしゃにしてクスクスっと笑うと、息子の質問に快く答えてくれた。

「だって、グリーンは誰をもハッピーにしてくれるから」

何年もグリーンの道を歩み、なんでも自分の手で好きな色合いに染めるのだと、彼女は可愛らしい声で話してくれた。帰り道、息子は目を輝かせて言った。
「彼女の家が見てみたいなあ。彼女の家に行きたいなあ!」

この初めての会話から数年が経った。エリザベス・スイートハートは今日もグリーン。今日も私たちを幸せな気分にしてくれる。彼女をNYブルックリンの自宅に訪問した。

自宅のドアもグリーン
自宅のドアもグリーン
庭もグリーンにするのが得意
庭もグリーンにするのが得意
“アーチストだったら、何でもできるものなのよ。”

Q: いつからニューヨーク在住となったのですか。

スイートハート: 1964年、ヒッチハイクでNYにやってきたの。私が住んでいたカナダの町には何もなかったから、アーチストになろうと思って。ニューヨークには誰も知り合いがいなかった。1週間くらいYMCAに滞在したかしら。気の毒な私のママとパパ。私が何をしてるかも知らなかったわ。20代はじめの私が、まさかヒッチハイクで引っ越しとは。

まず住む場所を探したの。そしたら、職がないとダメと言われたのよ!
誰も知らなかったから、道行く人に聞いたわ。どうやって、これをやるの、あれをやるの、ってね。「どうやったら職を得られるの?」って、誰かに聞いた。そしたら親切な人が「NY職業安定所に行きなさい」って教えてくれたの。だから、そうした。もう今では、その紹介所もなくなってしまったけれどね。

私の持ち物は、スケッチブック、アイススケート、着ているもの、だけだった。着替えも持ち合わせていなかった。カバンも持たず。いまじゃ何でも私はカバンに詰めこむのだけれどね!

Q: で、すぐに職に就けたのでしょうか。

スイートハート: ええ。NY職業安定所の女性が、私は何ができるかと聞いたので、私は「特に何もできない」と答えた。でも私にはスケッチブックがあった。彼女はそれに目を通すと「オー、いますぐ、あなたをインタビューに送るわ」と言った。

それで私は面接に足を運び、即座に、テキスタイル スタジオでアーチストとしての職を得た。それをいままで、ずっとやり続けてきたのよ。私は訓練を受けていなかったけれど、アーチストだったら、何でもできるものなのよ。

Q: ”スイートハート”(素敵な優しい人という意味)は、どうやってあなたの名前になったのでしょうか。

スイートハート: それは私のスタジオの名前だった。私がスイートハートになって、もう25年になるわね。人々がいつも電話してきては「スイートハートに来てもらえないでしょうか」と、仕事の依頼がくる。私がスイートハートってわけ!今の私のビジネスは、エリザベス・スイートハート・デザイン。

Q: NYマンハッタンにデザインスタジオを持っていたのですね?

スイートハート: ええ。40年くらいの間。最初は「スイートピー」という名(後、スイートハート)のデザインスタジオを7番街、メイシーズの近くの35丁目に15年、構えていた。それを手放してブロードウェイ大通りと6番街の間の40丁目、ブライアントパークの近くに移転した。デザイナーたちがスタジオに来やすかったわね。私はヴィンテージ織物を集めていたから、デザイナーたちがそれらのプリントを見にやってきてアイデアを得たものよ。私は1800年代から1960年代のヴィンテージ生地のコレクションを所持しているの。

Q: 生地のコレクションを所有しながら、デザイナーとして働いていたのですね。

スイートハート: アイデアやインスピレーションに使うためのコレクション。デザイナーたちはそれらのプリントを購入することもできたし、それを見に来て「おー、これは気に入った!あなたのアーチストたちが少しこれに手を加えて変えてくれないか?」と言ってくることもある。

私は長年、ラルフローレンと仕事をしてきたの。フリーランスとして、彼のスカーフや馬のデザインを委託制作していた。実に、彼らはもう新しいデザインを購入しないわ。彼らは昔からのを使っていて、いまはそれをコンピューターに入れて色を入れるの。

Q: 例えば、どのようなデザイナーたちと仕事をしてきたのですか。

スイートハート: 大きなメーカーたちと。ラルフローレン、リズクレイボーン、アメリカンイーグル・アウトフィッターズ、ジョーンズニューヨーク。ジョーンズニューヨークのデザイナーとは、今もとっても仲がいいのよ。彼女はニューヨーク州北部に住んでてね。今じゃ、私たちはもう年をかさねてきた人たちだけど(笑)

グリーンレディ Kitchen

Q: 毎日グリーンを装ってきたあなた。なぜ、グリーンなのですか。グリーンはどのようにあなたのハートを掴んだのでしょうか。

スイートハート: 私は多くの色、いろんな色を纏ってきた。単色にしたり、マルチカラーにしたりして。でもグリーンを着込むと誰もが気に入ってくれた。
それ(グリーン)は、会うみんなをハッピーにしてくれる。特に子供たち。だからグリーンをキープするようになっていったの。

Q: いつ頃から、毎日グリーンを装うようになったのですか。

スイートハート: かなりなるわね。20年以上。それは庭園だけに存在すべき色彩だって、昔は思っていたのよ!(笑)
私のスタジオでは、すべてをトライしてみたわ。プリントだけの装い。全部違ったプリント。そしてそれに合う帽子を制作し、それに合う色に靴を塗る。
色彩はいつでも重要だった。特にデザインにおいて。だからついには、私が、アート作品になってしまったの。

Q: 探索していろんな色彩を体験して、自分の究極の色にたどり着いたのですね。

スイートハート: そう思うわ。それは、考えてそうなったことじゃない。意図的にやったことではない。ただ、起きたことだったの。

今日はどのオーバーオールを着ようかしら?
今日はどのオーバーオールを着ようかしら?
彼女のアートはBath & Body Worksのレベルにも。
彼女のアートはBath & Body Worksのレベルにも。

Q: この色彩のグリーンは、なぜこれほどのインパクトを人々に与えるのでしょう。

スイートハート: どの色彩にも、それぞれの歴史がある。違う地区、違う時代からやってきた。昔から、人々がどのようにその色を使ってきたのか。違う時代ごとに、それぞれのカルチャーにとってそれぞれ違う意味があった。グリーンはあるカルチャーではポジティブなものでも違うカルチャーではそれほどそうでもないかもしれない。
それは、ソフトな色彩。マイナス要素なんて、その色には含まれていない。それに、ただその色は、私にとってピンとくるものだった(笑)。目に優しい。私は色彩に繊細なの。明るくてハッピーにさせるものが好きなのよ。

Q: あなたは周りの人たちを幸せな気分にしてくれます。

スイートハート: 私の素性なの。ただ、起きたことなの。私はいつでもクスクス笑っているのよ。(笑)

Q: 道行く人たちがあなたに気づいて話しかけてくることは大丈夫ですか。あなたの服装のおかげで奇妙な体験はありますか。

スイートハート: 何も奇妙なことなんてなかったと思うわ。すべてがみんなポジティブな体験で、ハッピーなものばかり。私が会えるのは、いろいろ違う種類の人たち。もともと、私は人が大好きなの。だから(話しかけられたり気づかれたりしても)構わない。私は驚くほど素敵な人たちに会えるのよ。

いまでは彼らとセルフィーを撮ることにしているわ。彼らはセルフィーが好きでしょ。でも私はなにも見れない。だからいまじゃ「私とセルフィー撮ってもいいけど、私もセルフィーを撮らしてもらうわよ」って言うのよ。

なので、私はセルフィーのためのインスタグラムを作ったのよ。グリーン・レディ・オブ・ブルックリン/ @GreenLadyOfBrooklyn

Q: あなたの将来は?なにを楽しみにしていますか。

スイートハート: オー。どの瞬間も、次のどの瞬間も、ハッピーにしようとトライすること、ハッピーにする試み。そしてそこに自分を置くこと。心をそこにおいて、瞬間を生きること。

とても仲の良い友達がいるの。彼女は腕を骨折したところ。彼女はどの瞬間も心配でいっぱい。医者に行ったら何が起きるのか、もっと悪い状態だと言われたらどうしよう、他のことをしなきゃならなくなったらどうしよう…って、これからのことの心配ばかり。

そんな風に考えるわけにはいかないわ。いま生きてる瞬間を、生きなきゃ。そうしないと、あまりに大きなプレッシャーがあなたに襲いかかってきちゃう。だから、それを解放してあげて。そしたら、なんでもベターになる。

Q: あなたにとっての瞬間に生きる方法、この瞬間にグリーンを纏うことですね。

スイートハート: イエス、イエス。そう思うわ。今の時代、グリーンになることは簡単よ。何もグリーンなものを買ったりしないわ。ただ私はものをグリーンに変えていくのよ。

エリザベス・スイートハートの描く絵画
エリザベス・スイートハートの描く絵画

*撮影:あずまゆか

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Yuka Azuma あずまゆか
yuka@trendandchaos.com

ハリウッド映画スターへのインタビュー歴、30年以上。NY在住。訳書にマーク・デヴィッドジアク『刑事コロンボ』(角川書店)、同『刑事コロンボの秘密』(風雅書房)、フランク・サネロ『ジュリア・ロバーツ 恋する女神』(講談社)『ヴィダル・サスーン自伝』(髪書房)がある。